8月3日の花火教えて

回想1

 

 2019年8月3日のことだった。

 久しぶりに8月3日が土曜日だった。

 夕暮れの奈原線堀川海岸駅。毎年恒例の奈原打ち上げ花火大会。

 

 きれいな打ち上げ花火だった。

 あの先輩、元気だろうか。

 先輩がいるバンドがメジャーデビューしたのが2012年。

 それからもう7年も経つのか。

 早いものだな。

 

 永京駅からやってきた津喜線の臨時急行「うちあげ花火1号」が、

 沢山のお客さんを乗せて堀川海岸駅に到着した。

 洒落た駅舎が夕日に照らされている。

 この夕日が沈めば、うちあげ花火が打ち上がる……

 

回想2

 

 ついに初めてイベントの企画を担当させてもらえることになった。今年の8月3日は、両得電鉄の沿線のいろいろなところで花火大会が開催される日だ。そして、8月3日の花火といえば、あの小説を思い浮かべる。

 

―小説『天気予報と花火』より―

 

 お願いだから、8月3日の花火、一緒に来てくれませんか。

 ただ、来てくれるだけでいいんです。

 どうかお願いします……

 

 2011年8月3日、千文社より出版された夏岡尊(なつおかたける)の小説『天気予報と花火』の書き出しだ。心臓の障害を持つ中学生の女の子「坂月みつき」が、誰に対しても優しい同級生の生徒会長「仁戸名仁」に、雨予報の8月3日に開催される予定の花火大会で、叶わないとわかっていながらも気持ちを伝えようとする青春小説である。この小説は、ほろ苦いエンディングを迎えるのだが、つい自分の過去と重ね合わせてしまうようなところがあって、この小説も、そしてアニメも見返してしまうのだ。

 

 せっかく8月3日に花火が各地で打ち上がるのならば、この小説やアニメと関連したイベントをやりたい。そして、その準備を春ぐらいから進めていた。アニメのOPソングを作曲したバンド「ベルガモ」や、アニメを制作したスタジオ兵庫の佐々木監督など、憧れていた人にも会えた。そして、ついにイベント本番がやってきた。

 

2019年8月3日19時時点での内容

 

 2019年8月3日は両得電鉄沿線の至る所で花火大会が予定された。各地とも天候に恵まれ、花火大会は無事に開催されそうだ。

 

 両得電鉄では各地で開催される花火大会を盛り上げようと、アニメCMを制作することになった。例年はただ「沿線の花火大会」と題したポスターを各駅に掲示する程度だったわけだが、今年はわざわざCMまで制作することになったのは、ある小説が関係している。

 

 2011年に両得電鉄沿線(津喜市出身)の小説家、「夏岡尊(なつおかたける)」が書いた小説『天気予報と花火』は、「8月3日の花火大会」が一つのキーポイントとなってくる。この花火大会は当時津喜みなとで行われていた花火大会がモデルになっているが、2019年は奇しくも8月3日に花火大会が集中することになった。

 

 津喜県内だけに限定しても、市屋、椿菜、海浜検見浜(津喜市)、堀川海岸(奈原市)、桃志、古林などで花火大会が開催されるほか、その他の県でも各所で花火大会が行われることになった。両得電鉄の広報部でさえ把握するのに手間取ったらしい。

 

 両得電鉄広報部では『天気予報と花火』を映像化し、それをCMとして放映することにした。この『天気予報と花火』という作品は、2013年にアニメ化されたわけなのだが、放送当時と現在では津喜市周辺の様子が少々変わっている。そこで、作中の風景を現在の光景と同じものに変更し、改めてアニメを作り直すことになった。

 

 さて、CMには音楽が欠かせない。この音楽製作を手掛けることになったのは、アニメ版のOPテーマを歌ったバンド「ベルガモ」である。クオリティーが高く作り込まれたメロディー、技術があるメンバーによる演奏、そしてボーカルの特徴的な声と紡ぎだされた歌詞がファンに支持されている。

 

 このベルガモというバンドであるが、初期の曲と最近の曲とでは雰囲気が変わってきている。ボーカルの声も昔はハイトーンだったが、最近は落ち着いた雰囲気で歌うようにもなった。アルバムも2013年当時のものはアッパーチューンを多めにしていたが、あるメンバーの脱退もあり最近は新しい方向性へと進み始めている。

 

 両得電鉄広報部、プロデューサーや監督などと話し合った結果、今回のCMに使われる楽曲はアッパーチューンとすることにした。これはアニメ版のOPテーマがアッパーチューンであったことや、花火大会特有の雰囲気をわかりやすく演出したかったという監督の意図によるものである。

 

 このCMプロジェクトは、2018年の秋ごろにはすでに製作が進められていたらしいが、実際に放映開始された2019年7月21日までは一切極秘にされていた。2019年7月27日の午後19時56分頃。各局多少のずれはあったが、ほぼ一斉に1分バージョンのCMが放映された。放映後すぐさま話題となり、両得電鉄のアカウントに投稿された動画も大きく拡散された。1分バージョンの放映後は、30秒バージョンのCMが放映されている。ちなみにCMの最後には「8月3日まで、あと〇日」というナレーション(登場キャラの声優を務める金沢那奈によるもの)が流れる。

 

 CMに合わせて両得電鉄や両得バスなどでも発車メロディーや車内チャイムの一部を『天気予報と花火』のCMに使われた「8月3日」に変更した。この発車メロディーやチャイムは、花火大会の最寄り駅で7月28日から8月3日(厳密には8月4日深夜)までの期間限定で流れている。

 

 両得電鉄ではこれに加え、オリジナルボイスのアナウンスを8月3日午後~8月3日深夜までの限定で放送している。20時頃までは花火の種類や花火大会の裏話を流し、20時以降はまた別のアナウンスを流す予定だとか。ちなみに、このオリジナルアナウンスは、乗務員が携帯するタブレット端末を介して流している。最近よく流れる、四か国語案内放送と同じ流し方らしい。

 


※当ページの内容はフィクションです。

当ページ最終更新日 2022年01月23日

当ページ公開開始日 2019年08月03日