ごく限られた夜

君と月を愛でたい

 

 まんべんなく凄い人ばかりが求められる世界で、不器用で何か得意なのかすら分らない私たちは、指をくわえながらネット上のバカを叩く遊びをしてなけなしの自尊心を保っている。

 

 でもわかってる。何者でもないんだって。

 ただ、誰かの心に残る人間になりたいよ。

 

 夜の寝室で人生とは何かを考えたって寿命は変わらないからさ。明日世界が滅んだら、地位や名誉のそのすべて意味がなくなってしまうからさ。だから、ただ愛を信じたい。私のすべてを受け入れてくれる、その尊い愛を大切にしたい。

 

 もう最悪。喧嘩した。

 でも仲直りしたい。

 だって、

 君の笑顔の尊さは数値化できないから。

 だから、これからも君と幸せで居続けたい。

 でもそんなこと、今は素直に伝えられないから。

 

 本当は君と月を愛でたい。

 

 眠くて憂鬱な朝は寒くて。感情も五感のすべてもごまかせなくても今日を迎えてしまったから。本当はあんなこと言うつもりなんてなかったのに。ただ悔しいって気持ちだけがここにあって。

 

 「強くなりたい」って、

 思っても呟くことはできなかった。

 

 

世界が闇に包まれたとき僕は

#津喜県 #津喜市 #結急津古線よつわ台駅

 

 これから新しい時代が、案外すんなりやってくる予感がしたんだ。新着の暗いニュース、未来を不安視するSNSの書き込みに、戦争の続報。僕が高校生だったつい数年前の世の中って、こんなんだっけ??

 世界が、もう闇に包まれてしまったような感覚だよ。まだ午後6時なのに外は真っ暗で、まだ先だけど雪が降る季節が近づいているってわかる。でも、夜が来ても朝は必ず来る。

 

 そう、朝が来る。

 そう、朝という新しい日々の始まりが、

 そう、その輝きを想像できるから。

 この夜に好きな音楽を聴きながら想像した未来は、

 僕らが想像できる以上の未来だった。

 

 それを現実にするために今書いているんだ。

 この夜を文学にして、未来に残すって決めたから。

 僕はただ、誰かの心に残る作品を作りたいからさ。

 

 最低限の生活、小さなアパートの一室。今流している切ない雰囲気の曲が、過去を思い出させる。思い出す必要がなくなった暗い記憶や辛い未練を、なんとなく蘇らせた僕は感傷的になって、今夜はそんな気持ちに包まれていたいって思った。

 

 憂鬱で早まろうとしたことも、

 ずっと大切にするって決めていたあの窓際の同級生のことも、

 思い出す意味はない。けど、その記憶が人生に刻まれているのは確かだから。

 

 「そろそろ、木々が紅に染まっていく時期だね」

 

 書く意味のない手紙を書き始めた僕は、思い出す意味のないはずの人の顔を浮かべながら筆を走らせた。でもごめんよ。この手紙は出せないんだ。あなたの住所を知らないから。

 胸の奥で、何も理解してあげられなかった同級生のことをぎゅっと抱きしめた。でもごめんよ。今は、別の人を大切にするって決めたから。

 

 今年の初雪は、例年より遅れるらしい。

 ニュース速報は、毎日雪の日の夜みたいに冷たいね。

 それに対する世間の反応も何もかも、冷たいね。

 

 世界が闇に包まれたとき僕は、

 多分今日みたいに詩を書いている。

 きっと。

 

夜行

#津喜県 #津喜市 #稲木区 #津喜都市モノレール #天台 

 

 仕事をする以外の気力が無いから、買い物しないで家に帰ったら食べるものがないことに気が付いて、でも買いに行く気力が無くて夜ご飯食べないでそのまま寝た。朝目が覚めたらギリギリの時間で、そういや昨日お風呂に入っていないことに気が付いて慌てて風呂に入って、風呂出たらすぐに身支度調えて駅までダッシュしてギリギリに出勤して……

 貯金だけはやたらとある。休日は家に引きこもって読書したり寝たりしている。体はガリガリ。だから帰省した時に親に心配される。「ちゃんと食べてる??」ってね。

 

 そんな日々が続くのは、体力的にはキツくて精神的には寂しくなるから、だから逃避行したいじゃん。だから今私は、詩を書いているんだよ。もう、不安な気持ちが襲いかかるのには慣れたけど、怖いものは怖いからだからさ。

 

 不安な時は奇跡が起こることを考えよう。

 怖いかな、本当に怖くないって、怖くないよ何も。

 この先には多分、たぶんロマンスしかないんだもん。

 唯一無二の私が書く、唯一無二の詩はきっと、沢山の人に褒めてもらえるものだと思うから。根拠はないけど。「詩人なんて職業は、少なくとも日本には存在しない」っていう人がいるけど、でも私は、詩に埋もれていたい。なんなら詩を書くことでご飯を食べることは、不可能じゃないと信じているから。

 

 高級なブランド物のバッグなんかよりも、詩のほうが私には尊くて、正義だから。

 

 夜は詩にしか集中できないの。不安な気持ちを紛らわせてくれるミュージック聞き流しながら、心だけは踊らせたいんだよ。インド映画みたいにさ。世間が興味を持っているものに興味を持てないから、一緒に無心になって詩を祈るように書くこの楽しさをかみしめたいから。

 能書き破っていけ。そもそも計画なんか立てられるわけないから年中能書きなんてないようなものなんだけどさ。今という一瞬しか上手く集中できないんだよ。私は。

 ノルアドレナリンとセロトニン。丑三つ時の街は静まり返っていて、そこに響く私の足音。この夜こそが私の居場所で、昼間は明るすぎてそわそわしてしまって、やっぱり夜でしか生きていけないような気がして。夜がいい。

 

 夏の暑い昼より、

 冬の夜の方が大好きだな。

 静かで、空気が澄んでいるから。

 

 秋よ、もっと深まって……

 

忘れないでよ

#津喜県 #古林市 #結急若萩線 #草深

 

 「綺麗」っていう感情は、決して日用品じゃないけれど。

 でも、たまに恋しくなるな。

 いま目の前に広がっている空の色はオレンジ。

 隣に初恋の相手が居たら、きっと告白していただろうな。

 

 ふと思い出した。

 初恋の相手に告白をしたとき、言いそびれた言葉。

 「忘れないでよ」

 だった。

 

 いや、もう思い出しても無意味なんだけど。

 アラサー。新婚。主婦。

 あなたのことは忘れてません。

 今は旦那がいるんだけど。

 

 7時ぐらいから始まるバラエティー番組を見ながら旦那と晩酌。現代社会は頑張ればお金を稼げるけれど、いらないストレスが多すぎてまったく参ってしまうねと言いながら今日も愚痴大会が始まる。

 

 「いや~~後輩が口だけはいっちょ前に動くんだけど、手が全然動かないんだよ。手を動かせや手を!!」

 「バイト先の男の子の挨拶の声がちっせーわ。そんなんでお客様に聞こえるとでも思ってんのかって説教したくなったけど、我慢した。でも改善されないんだったら思いっきり説教してやる!!」

 

 日頃のストレスがお腹にたまってる。内臓脂肪ならぬ内臓ストレス。これを落としてくれるのは健康茶でも運動でもなく、晩酌しながら開催される愚痴大会だけ。ああ、いやなこと右から左に受け流せるメンタルが欲しい。駅前のクリニックで治療したらそんなメンタルにならないもんですかね。顔の整形やデリケートゾーンの脱毛なんかより、メンタルを整形したいわ。

 

 気に入らないことを言い合って、お互いストレスを発散する。

 こんな夜がなんだかんだ好きだ。気に入る夜を彩るのは愚痴。

 愚かだね。でも、愚かじゃないと人間やってらんないからさ。

 

 愚痴のない夜を知らない。

 愚痴のある夜しか知らない。

 

 「忘れたいわよ」

 世の中嫌なことだらけだけど、忘れちゃいけないことも沢山ある。そして、覚えてたって意味のないことを案外覚えていているもんである。夕方に思い出していた初恋の相手の顔と性格。当時は魅力的に思えたけれど、今思えばあの時の挫折や悲しみや寂しさってのは、その後の恋愛に必要なことだったんだなって思える。

 

 旦那が言う。

 「ストレスは人生のガソリンだと思う」

 ガソリンかどうかは知らないけど、何かの原動力になっているのは確かなような気もする。

 

 明日も一日頑張ろう。

 忘れないでよ、私。

 


※当ページの内容はフィクションです※

当ページ最終更新日 2023年10月16日

当ページ公開開始日 2023年09月23日