ごく限られたロマンス

キューピットは何時間遅れ??

 

 夜の空港行き急行。時折航空便の運航情報がアナウンスされていた。ニューヨークからの便は三時間遅れ、新千歳行きの便は欠航になったになったらしい。わざわざFMみたいなジングルまで流れていて、用もなく空港に行きたくなったことが何回あったことか。

 自宅の最寄り駅は富街駅で、歩いて10分ちょっとぐらいかかるところにある。小さいアパートでの一人暮らしの日々は、大した楽しみなんてなくてメシを作るのもめんどくさくて、金曜日はおいなりさんの前にある牛丼屋に行くと決めている。

 スマホで確認した今日の試合結果。応援しているチームは調子がよくないらしい。「なんだよ」って愚痴りたくなるけどしょうがないから。スポーツ観戦以外の趣味ってのがなくて、しかも応援しているチームの調子と俺の機嫌が連動してしまうものだから、新しい趣味を探している。

 気になっているのはペットを飼うことで、同僚の高橋がマルチーズを飼っているとのことで俺も飼いたいなぁなんて思っている。でも今のアパートはペット禁止だから、ペットOKなアパートかマンションを探しているところだ。

 しかし、ペットOKな場所に引っ越すのは別に問題ないんだ。一番問題なのは、俺がペットの面倒を見てやれるかって問題なんだ。正直自信が無い。ずぼらな性格で部屋は散らかっていて、家に帰ればもうぐーたらして風呂入って歯を磨いてすぐ寝てしまうし。そんな調子だから前より太ってしまって。

 ああ、犬のことを考えたら、俺自信のことを考えても飼わない方が賢明な選択だよな。ってわかっちゃいるけど、寂しい。かわいい彼女でもいればなって思っても、好きなアニメのヒロインみたいに優しくてかわいい彼女に出会える可能性なんて……

 ひょっとして宝くじに当たる確率よりも低いんじゃないか??

 ニュースで見たよ。最近の若者は結婚以前に恋愛にすら興味がないって。そりゃそうだろうね。給料は上がらないわ、そのくせ税金が上がるから生活が苦しくなるわ。こんな世の中にどうやって希望を見出せと??

 恋愛っていう理性を狂わすギャンブルに気を遣うほどの、そんな余裕が俺たち若者にあるっていうのか??

 若い政治家の一人や二人がいてもいいと思うんだけど、この国じゃ「若い」の基準が高齢化に伴ってどんどん上がっていってしまうから。若くない人まで「若い」って言われてしまうこの国の、本当の若者の俺たちはSNSで、雀の涙みたいなちっぽけな意見を伝えるので精一杯だから。

 何も変わらないってわかってるなら、諦めるのが一番悲しまないでしょ??

 でも夢を見たいんだ俺は。もう30歳を過ぎて若者とは言い切れない年齢になってしまったけど、俺は、マルチーズを飼うことも彼女を作ることも、結婚して子どもを育てて幸せな家庭を作ることも諦めていないから。まあ、「宝くじ当たったらいいな」みたいな浮世離れした夢でしかないんだけど。

 適当にチャンネルを変えていたら、京都にある縁結びの神社に好きなアイドルがお参りしていた。ああ、この子と俺が結ばれたらなあ……

 度数の高いチューハイを飲みながら夢を見ていた。具体的な夢を。夏になればハワイ、冬はどうしよう、ロンドンとか行ってみたいななんて考えていた。飛行機が飛び交う夜空を眺めて、気持ちだけはウキウキしていた。

 チューハイはもう飲みきってしまったけど。

 

一緒に帰ろう

#鳥豊南部 #知元市 #知元海浜公園 #結急夏島線

 

 水というのは形がないから、アニメーターが昔から表現に苦しみ続けているんだと彼女が話していた。目の前に広がる海を見つめながら、高校時代に見たアニメは海辺が舞台で、とても作画が綺麗だったという話をし続けている。アニメーターを志していた彼女はいま、アニメグッズを扱うお店で働いている。

 「動く水を描くのって本当に大変で、よく観察しないと上手く描けないのよ」

 絵というのはデッサンも大事なのだけれど、アニメを作るとなると動きがあるので、その観察もしなければならない。

 「水滴ってのは表面張力で丸い形をしているわけさ。それが着水と同時に……」

 長い。これがただアニメのキャラクターがどうだの、どんな内容だっただのじゃごく普通のオタクトークなのだろうけど、彼女の話はひと味違う。作り手側の目線で話してくるというか……

 「にしても悲しくなってくるよね。アニメって芸術を作るためにはお金が必要で、それをビジネスとして成り立たせる人がいて。でも、そうやって出来た芸術がどんどん放送されていって、そして傑作も過去に追いやられていくのよ。私はひとつの作品をずっと愛し続けたいなって」

 「一途だね」

 「ただ好きなものが好きなだけだよ」

 ただ、それだけの想いがあっても、なにか満たされないものがあるのだろう。アニメショップをやめて、イラストレーターになりたいと思い最近デッサン教室に通っているらしい。

 「なんだか、先が見えないのよ。それなりに満足はしているんだけど、大人になって成長できなくなってきたというか。全く成長していないわけじゃないんだけどね、でももっとストイックに子どもの時みたいなスピードで成長したいの」

 彼女のデッサン力はもともと凄いのだけど、それをより高めようとする志に感心する。ごく普通の会社員の俺には到底たどり着けない境地だ。でも、こんな事を言われた。

 「井上くんって、喜怒哀楽がはっきりしていて羨ましいよね。私なんか、感情があまりないっていうか……昔はよく感傷的な気持ちになったり、凄いカッとして大げんかしたり割と喜怒哀楽がはっきりしていたはずだったんだけどね」

 「いつも飄々としているもんな」

 「感情があまりないことの何がいやなのかって、作品を作る時に感情を込められないのよ。いくら表現力を身につけても、私自身の感情の薄さをそれで補いきれない。悔しい」

 そうか……というただ3文字を呟くことしかできなかった。日頃他人と誰かを比べて「自分の方がすごい」と思ったり、ウザい上司や同僚に散々苦しめられていたりで中々精神的に辛くなることもある私は、逆に感情の薄さが羨ましいとも思うのだけど。でもそんなこと言ったら彼女を怒らせそうな気がしたから。

 

 「一緒に帰ろう」

 まだ帰るにはちょっと早いけれど、一緒に漫画読みたいなって。

 

メルティ・ラブ

 

 掴めなかった糸のさわり心地が忘れられなかった。掴めなかったという事実を忘れたいから、仕事のことばかり考えるようにしていた。あの日あなたが怒ってくれたのは、愛があったからだったんだって今更気が付いたけれど、今更気が付いたところで余計寂しい気持ちになってしまうだけだから。

 あの日の先輩の背中を追えているだろうか。やっぱり、夕日は切なくなる。この夕日には、苦い缶コーヒーがしっくりくる。

 

 叫んだって届かない声の尊さなんて、

 自分自身にしかわからないんだから。

 

 もう思い出さないって決めてるあの夏のせいだよ。髪の毛をいじりながら孤独を満たすような日々を過ごしているのは、あの夏に贅沢をしすぎたせいだよ。そんな気がするんだよ。

 

 「来年の冬は、忘れられないほど綺麗な冬にする」

 神様に願った。

 去年の年末のことだった。

 

 本当は恋なんてするつもりじゃなかったんだ。

 ひとりぼっちで切ないクリスマスも悪くないなって思ってたんだ。

 でも出会ってしまったんだよ。

 

 春に出会った人は、そのすべてが私好みだった。優しくて笑顔が素敵でいつもそばに居てくれて。でも一人になりたいときはちゃんと一人にさせてくれて。聴いたことなかったけどお洒落な洋楽を沢山教えてくれて、景色が綺麗なところに沢山連れて行ってくれて。

 勇気を出して誘ってみてよかった。こんなにも甘えん坊さんだとは分らなかったけれど。でも、そういうところも全部好きだ。真夏の魔法で私のものになったあなたを、冬の魔法で永遠のものにするって決めたんだ。

 

 抱きしめ続けたいんだ。

 ただずっと抱きしめてくれるだけでいいんだ。

 明日世界が終わるとしても、

 季節がどんなに変わっても、

 ただずっと抱きしめていてほしい。

 

 心も体も溶けてしまうよ。

 君が好きすぎるせいだ。

 

 初めてだよ。

 こんなに失いたくないって思えた時間なんて。

 こんなにイルミネーションが綺麗で、

 こんなにあなたの表情が愛おしく思えて、

 こんなに、失いたくないって気持ちで溢れているんだよ。

 

 永遠なんてないって分っていても、

 永遠を願い続けたい。

 あなたとの日々だけは、永遠のものにしたい。

 

 永遠なんてあるわけないけど、それを望んでしまう私たちは、その望みを生きる糧にしていくんだから。

 

黄昏ロマンティック

#鳥豊南部 #神場府神場市

 

 心を揺さぶられる体験が怖い。感動するのが怖い。一回感動してしまえば、感動できてよかったと思えるんだけど、感動するに至るまでのプロセスが怖い。時折、感情がなかったら人生どれだけ楽なんだろうって思うけれど、感情を捨てるなんてできないから。

 感情が精神のすべてを覆う。覆われた精神が感情に襲われる。その間隔が怖くて、流行りのドラマや映画を見る邪魔をする。もしこの感動する映画を見たら、私はきっと耐えられないんじゃないかという恐怖。ただ、感動するのが怖い。

 本当は、みんな見ているドラマの話を一緒にしたいんだけど、ドラマを見るというごく単純な行為に、とてつもない恐怖を感じてしまう僕は、そのことに劣等感を感じている。

 なぜ人は感動したいと思うのか、それを理解したくて小説を書こうとするんだけど、自分が書いた小説であっても感情揺さぶられそうで怖くて書けない。短い言葉にして出力することが精一杯で、それを詩にしてまとめるのが精一杯で。名作のように筋の通ったストーリーにするのは、恐怖でしかなくて。

 本当は、もっと感動したい。感動を理解して、もっと感動したい。けれど、本能が感動から逃げようとしている。その本能に逆らってまで感動したいんだけど、逆らいきれない。他の人がごく自然に、感動できるドラマを見ていることがどれほど羨ましく思えることか。

 

 もっと人を知りたい。

 感動を知りたい。

 得た感覚や感覚が精神に襲いかかる前に、

 それを理解して整理して受け入れられる、

 回転の早い頭がほしい。

 

 ごく些細な感覚すら整理しきれず、時折頭が混乱してイライラしてしまうことがある僕には、感覚を理解するというごく普通の才能すらないのだろう。もっと、普通に感動できたら……

 

 秋の浜辺。紅葉が色づいてきた。

 一生懸命詩を書き続けて数年、

 僕のすべてを理解してくれる彼女ができた。 

 

 「この瞬間が続いてくれたら」

 

 永遠という概念はロマンティックだけど、本当は永遠なんてあり得ないってわかってる。けれども、永遠を求めたくなるのが人間の性だから。だから、少しでも君と、永遠に限りなく近づきたい。

 砂浜で夕日に照らされながら、彼女と歩いている。海に向かって三線を弾く人もいる。「エモいな」って思ったけれど、そんなことを言ったら彼女に「語彙力ないなぁ」と呆れられるから。

 

 「感動する光景だね」 

 そうつぶやいた。

 そうつぶやけた。

 

 感動をごく自然に受け入れられた瞬間だった。

 これが、豊かな時間そのものだと確信できた。

 

 世の中に対する憎しみを違うエネルギーに変換したいって思うことがあって、どのエネルギーに変換しようかと考えた時、そのベストアンサーは愛に違いないと思った。

 

 今でこそ憎しみを違うエネルギーに変えられるようになった僕も、そういえば詩を書き始めるまえは、発散できなくてため込んでしまっていたなあ……

 

 でも今は、君が寄り添ってくれる。

 詩を書いて憎しみを発散できている。

 ここまで君とずっと居たいって思えるのは、

 ここまで君を守りたいと思えるのは、

 誰かを憎んでいるからこそ……

 なのかもね。

 

 僕は彼女を守ると決めた。愛が重くならない程度に。お互いの個性を犠牲にしないように。ここまで守りたいと思えるのは、今までの誰かに対する憎しみの蓄積があるからだと思う。だから僕は、僕を犠牲にしてまで彼女を守るって決めた。これが俺のアンサー、すなわち正義だ。

 

 だって愛は素晴らしいだろう??

 痛々しいけど、人間が子孫を残していくためには必要だろう??

 生き物として正しいのは、

 お金第一よりも愛情第一だと確信しているから。

 

 愛しているんだ。

 それでいいんだ。

 

星が綺麗ですね

#鳥豊地方南部 #神場府星久喜市

 

 夏の夜空よ。

 小さい頃からずっと天体観測が好きで、

 今日も望遠鏡を覗いた。

 

 10年前は父親と、

 去年は一人で、

 今は、彼女と。

 

 星空は楽しい時も、くじけそうな時も、失恋したときも、不安でしかたがないときも、最高に幸せな今もずっと寄り添ってくれている。

 

 「星が綺麗ですね」

 「月が綺麗ですねじゃなくて??」

 

 幸せは日々の些細な出来事の積み重ねで成り立っているから。

 今日も願い事をしていいでしょうか。

 私たちは、お星様みたいにずっと輝き続けたいのです。

 


※当ページの内容はフィクションです※

当ページ最終更新日 2023年08月06日

当ページ公開開始日 2023年08月06日