ごく限られた意味深

君がアレしてくれないかな

 

 アレが好きで仕方ないんだよ。

 「アレ」って言葉で誤魔化しているけど、でも友達は「アレ」の存在を見抜いてしまってるみたい。

 にっこにこでかわいいあの人と、偶然どっかで二人きりにならないかな。

 でも意図的に二人っきりになる度胸はないんだよな。

 だから二人っきりになれないんだよな。

 

 アレ??

 友達の中の一人。特別っちゃ特別だけど、オンリーワンの特別じゃないんだろうな。

 いきなり都合の良い展開になったらいいなとふと妄想するけど、

 考えてみ??

 成績がヤバいんだよ。妄想に夢中で何事にも手が付かないんだ。

 だから早く僕に告白してくれよ。

 我ながら馬鹿だと思う。

 

 君と出会う度、じーーっと見つめては時折目が合う僕のことを、

 どうか気持ち悪いと思わないでください。

 見つめる行動力だけはある。前に進むことはできないけど。

 

 アレ??

 前よりもニコニコしてない??

 もしかして気持ちが伝わってるの……

 それとも成績のヤバい僕のことを、めちゃくちゃ馬鹿にしているのかな。

 悪化する妄想癖、ポジティブでもネガティブでもヤバい。

 もう爆ぜてしまいそうだ。キュンキュンして仕方ないんだ。

 だから……

 

 ごめんなさい。

 今日もなにもできなかった。

 めちゃくちゃアレしたいんだけど、

 でもこのままでいるのも幸せなんだ。

 

 気持ちを誤魔化すために飲んだサイダー、

 むせた。

 

解答

 

 なんか最近、稗田(ひえだ)とよく目が合うのは気のせい??

 そんなに見つめられても困るよ。だって私よりかわいい女の子沢山いるのに。

 って、もしかして髪型が変なだけ??

 

 寝癖??

 服にゴミでも付いている??

 汗臭い??

 考えたくないよ。

 

 毎日気を付けているのに。でもどうしてそんなに見つめてくるの??稗田??

 もしかして私のこと……アレ……馬鹿みたい。

 そんなわけないのに。

 気になるけどなにも聞けないよ。

 

 何で私を見つめるの??

 稗田、見てる暇あったら解答してよ!!

 これでもいつもより気合い入れてるのよ。

 もしかして気合い入れすぎて空回りしてる??

 もしかして私のこと……アレ……もおおおおおおーーーーーー!!

 

 何でもないはずなのに、

 なんか意識しちゃうんだ。

 気になるけど、気持ちを言葉にするのは苦手だから。

 ねえ稗田??

 なんで私を見つめるの??

 話してよ!!

 

 霞む心、これを言葉に表すならどんな表現がいいだろう。

 私の辞書には、「不可能」の文字が沢山並んでいる。

 語彙力がないから、ヤバいとかエモいとかそういう言葉以外で表すのは「不可能」なんだ。

 なんか知らないけど、今の気持ちがエモい。

 このエモさ、話したくない。

 このエモさ、離したくない。

 ずっとこのエモさ、掴んでいたい。

 

夕日より綺麗な色

 

 部室、放課後、窓の外。 

 

 最初は中の下ぐらいの顔だと思っていた。ただ、部活でこうやって一緒に活動し続けるうちに、なんというか中の下よりかは若干かわいいのではないかと思うようになった。顔はともかく声はかわいいんだよな。

 

 テニス部が練習しているところが見える。俺がいる文芸部はうちの学校で一番影が薄い気がする。文芸部ですっていうと、「なんかスゲー」っていうんだけど、俺とよく仲良くしている奴らは小説なんか読まなさそうというか読んでない。 

 

 世の中には、小説よりも無料ガチャの方が大事な奴と、無料ガチャ以前にゲームは一歳やらずに文学表現を極めようとしている奴と、そのどちらでもない奴がいる。窓際でなんか書いてるポニーテールは文学表現を極めてる奴だ。 

 

 ただ、何かを得ることは、それと同時に何かを失うことでもあるって物思いにふける君の目線が語ってる。 

 

 手元、ノート、丁寧に書かれた字。

 カラスの鳴き声。お前らは先に帰れ。

 他の部員は休んでいたりトイレに行ってたりしていない。

 先輩の大きい方はずいぶんと時間が長い。

 

 ずいぶんと見つめすぎたようだ。

 あわてて、目を反らした。

 仕返しをしてきた。 

 

 また見つめてみた。顔はこっちを向いているけれど、目線を斜め上にそらしている。 

 

 「ねえ」 

 

 夕日よりも綺麗な色に顔が染まった。

 

願うよ

 

 願っているの??

 

 日がどんどん短くなって

 ちょっと肌寒くなってきて

 冬将軍の気配を感じて

 夕焼けを見るとやけに感傷的になってしまう

 

 そんな季節に君は何を願ったの??

 世界平和??

 君の理想は誰かにとっては悪夢かもしれないよ??

 なんてね

 

 君が願う「未来」で咲く花は綺麗なの??

 僕は枯れた花のことばかり想像しちゃうよ

 

 ねえ

 その横顔をこっちに向けてよ

 今は何も考えたくないんだよ

 

 迫る日没

 不安な日々の余白

 君で埋め尽くしたい

 

海辺の彼方

 

 心配性が直らないんだ。かといってメンタルクリニックに行くほどではないんだけど。

 明るくて、楽観的な人が心底羨ましい。自分とは真逆だからだ。

 今度告白しようと思う人は、明るくて、楽観的な人だから、見ていて落ち着く。

 けれど、時折ぼーっとしているのが少し気になる。

 

 そんなことはどうでもいい。

 

 夜の海辺は、少し怖い。海が真っ暗で、ちょっと不気味な感じがする。

 まるで今の僕のメンタルのようだ。でも、君は……この僕のメンタルまで優しく受け入れてくれるのだろうか。

 そんなことを考えると、余計に不安になる。

 

 でも、そんなことはどうでもいい。

 

 告白をしなければ、なにも変わらないのだ。「失いたくない」って気持ちを、もっと鮮明なものにしたい。本気で「失いたくない」って想いたいんだ。それぐらい本気で好きなんだ。

 

 明日は木曜日か。

 持つかな……この心。

 

波の彼方

 

 波一回で消えなかった

 波打ち際に書いた名前

 一回で消えて欲しかったのに

 

 あの日と真逆のことを考えていた

 消えて欲しくないと願ったあの日ごと

 すべて無かったことになればいいのに

 

 消えかかったその名前

 この砂浜で遊んだ人だ

 所詮過去のことなのだけれど

 

 あの日と真逆のことを願っていた

 消えて欲しいと願うようになりました

 すべて無かったことにしてしまいたい

 

 だんだん薄れていった

 だんだん暮れていった

 月が綺麗だけどどうでもいい

 

 あの日と真逆のことをつぶやいた

 消えてしまったからもう分らないけど

 すべて無かったらよかったのだけどね

 

 波がこの思い攫ってくれればいいのに

 

まやかしの約束

 

 今夜ばかりは

 幸せな夢を見てたい

 まやかしでも

 まやかしだけど

 約束する。

 

 不安を煽るニュース。

 甘ったるいジュース。

 収入と支出の差がほぼ無くて、

 夢を見るのすら一苦労だよ。

 

 今夜ばかりは

 幸せな人生を想像したい。

 まやかしでも

 まやかしだけど

 自分のために。

 

 明るい未来を想像しても、

 それが実現できるという確証なんてなくて、

 努力したって、

 不器用すぎて無理がある(笑い)。

 近くにあるメンタルクリニックは、

 予約が埋まってて中々行けない。

 

 現実はいやだ。

 ずっと夢を見てたい。

 底辺でも特別扱いされたい。

 でもそんなのすべてまやかしだ。

 

 今宵かぎりは

 幸せな妄想したい。

 まやかしでも

 まやかしだけど

 約束したい。

 

 まやかしの約束。

 うたかたの夢よ。

 

青春の罪滅ぼし

 

 片思いの辛さなんて案外簡単に克服できてしまうことを、それを小説のテーマにした僕は愚かだろうか。新しい彼女が出来て、今が楽しくて、わざわざ昔を思い出す理由なんてないんだけど。でも、その片思いしていた頃の辛さとか痛みこそが僕を成長させてくれたのは、紛れもない事実だから。

 

 完成した小説の主人公は君にしておいたよ。

 その小説のタイトルを『青春の罪滅ぼし』にしておいたよ。

 

 かわいい声、おっとりとしたしゃべり方や立ち居振る舞い、アニメが好きなところ、時々アニメキャラの真似をするところ。かわいいところも痛々しいところもそのすべてを僕は愛していた。片思いしていた。

 

 初めて告白したあとの静寂と痛み、後悔。

 

 繰り返し思い出した暖かい夕暮れに照らされる君の笑顔と、気まずい関係になったあとの、遠目で君を見つめた時に感じた切ない感情。思い出すたびに、かすかに記憶が薄れていく感覚に対する恐怖。

 

 忘却の彼方。孤独を埋めるための逃避行、償い。

 

 「お前じゃないと駄目なんだよ」って何回思ったんだっけ。今は、隣に居る彼女がそんなことを忘れさせてくれるほど優しい。お前に優しく出来なかった分、今の彼女に優しくしている僕って……

 

 鮮やかな憧れを追いかけていたらたどり着いた世界には、

 今まで想像もしたことがなかった光景が広がっていて、

 思っていたより華々しい世界ではないこともわかって、

 でももっと、もっと奥へ行ったら君が待っている気がして。

 

 ただ君を追いかけるために小説を書いていた日々も、

 忘却の彼方。

 

 ただ君を追いかけるために小説を書いていた僕に憧れ、

 連絡先を交換してもいいですかって声をかけてきた人。

 本当の運命の人は、その今の彼女でした。

 

 片思いの辛さなんて案外簡単に克服できてしまうから。

 でも、それを克服するためには幸運が必要だから。

 自助努力で克服できるものじゃないからさ、

 過去の僕に言いたいことはさ。

 

 感謝の気持ちを誰に対しても忘れてはいけない。

 以上です。

 

 お前は元気か。きっと元気だろうな。恋愛よりも好きなアニメのかっこいいキャラクターのグッズを買うことに無我夢中なんだろうな。そんなことを思い出したってお互い無意味だけどさ、完成した小説の主人公は君にしておいたよ。

 

 もう追いかける必要がないからさ、

 これからは自分自身の理想だけを追いかけることにするよ。

 それこそが青春の罪滅ぼしだと思ったからさ。

 


※当ページの内容はフィクションです※

当ページ最終更新日 2023年10月16日

当ページ公開開始日 2023年10月11日