ごく限られた夏

サイダーボーイ

 

 あなたが飲んでるサイダーを、私は笑顔で見つめてる。っていう夢だった。爽やかな青空と瞳と若干の汗臭さを私は、夢じゃなくて現実に変えたいから。臆病だからとても怖いけど、勇気出して「絶対に」夢を現実に変えるって決めたから。言い訳を探してばかりの私に嫌気がさして、言い訳を探してばかりのクソダサい大人になりたくはないから。すぐに変えられなかったとしても、私は絶対に……

 生ぬるくなってしまったサイダーを流し込んだ夏のトワイライト。テレビを付けたらアニソン特集していて昔から好きな曲が流れていた。夜空を眺むたびに脳内再生されるほどのロマンに溢れたあのアニソンは、思い出になった人のことを歌っているけど、でも私あなたとずっと思い出を作り続けたいの。周りの人の思い出になるくらいの、素敵な二人になるって誓ったから。

 

 トワイライト夜空永遠(とわ)願う。

 トワイライト夜空永遠(とわ)願う。

 トワイライト私永遠(とわ)誓う。

 今夜の月は綺麗だった。

 

 送ろうとしたメッセージは、定番ラブソングみたいなストレートで痛々しい表現で、まだ隠していたい感情の何一つすら隠せていなくて、「恥ずかしい」って顔真っ赤にして全部消した。でももう一回書いても同じような内容になってしまって。また顔が真っ赤になった。昔の小説みたいな告白なんか私にできるわけないし。もう。

 

 もう

 もう

 (もう)

 

 詩的な感情を「もう」の二文字でしか表せないのが、本当に「もう」ってなる。そんな私には簡潔な文章で気持ちを伝えるのがきっとお似合いだから。だから送りました。デコ文字を一文字ずつ5回。今感じている気持ちなんとかする方法は、何の教科書に書いてありますか??

 こういうときに限って既読がなかなか付かない時の感覚って、どんな言葉で表せられるのですか??分厚い辞書にもきちんと書いてあるんですかね。

 テレビから今流れはじめたのは、私もあなたも好きなアニメの主題歌でした。

 

スキャンダル

#鳥豊北部 #奉旗県津幡市 #奉旗県立古沢高校

 

 想いを手紙みたいにしたためるんじゃなかったわ。こんなの大スキャンダルだよ。なんで君は突然、唐突に教室に入ってくるの?? 夏休みの学校のいま居る教室は、冷房も扇風機も何一つ付けてないからただ暑いだけで、窓を開けてもほんのかすかな風しか入ってこない。それは夏だからしょうが無いけれど、なんで君は突然、唐突に教室に入ってくるの??

 バレちゃったじゃん。もうちょっと片思いしたかったんだよ。私だって乙女なんだよ。本当は花火大会に君を誘って、打ち上がる花火の光に照らされる君の横顔を見ながら、告白をするまでのどうしようもないドキドキを味わいたかったのに。

 

 バカ。

 

 こんなの大スキャンダルだよ。

 なんで君は突然、唐突に教室に入ってくるの??

 こんなの許せないんだよ。

 なんで君は突然、唐突に教室に入ってきたの??

 こんなのずるいよ。

 ラブコメを序盤の展開すっ飛ばして始めるんじゃないよ!!

 

 バカ。

 

 お互い汗だくだった。手紙みたいにしたためた気持ちを、肝心の片思いしている彼に見られてしまったけど、彼も私のことが好きだなんて言って……

 

 バカ。

 

 こんなの大スキャンダルだよ。

 なんで君は突然、俺も好きだよなんて言ってくるの??

 こんなの許せないんだよ。

 なんで君は突然、唐突に私の初めてを奪ったの……

 こんなのずるいよ。

 夏の暑さと一緒に今、あなたに溺れてしまったんだよ。

 

 バカ。

 

 今日の夜の花火大会、告白するドキドキを味わいたかったのに。

 今日の夜の花火大会、彼氏になった君と初めてのデートじゃん。

 こんなの大スキャンダルだよ。

 甘すぎて、溺れてしまって、まともに花火を見られないじゃん。

 こんなのずるいよ。

 まだ花火大会始まっていないのに、私の顔も君の顔も、真っ赤に染まっちゃって恥ずかしくてキュンキュンするよ。

 

 「そんなにバカっていうなよ」

 「仕方ないじゃん」

 

 セミの鳴き声、屋台の金魚すくい、その他多数の群衆。

 地元のいちごをモチーフにしたキャラクターも来ている。

 ねえ、頬も唇も、花火よりもいちごよりも感傷的な紅に染めて……

 

ひまわりを書きたい

 

 言葉に出来ないことがありすぎて、

 ちょースゲー神ってるって言って、

 今日も誤魔化して。

 

 エモい感情とか景色とか光景を、

 もっと沢山の言葉で表したいのだ。

 だから今日も辞書を開く。

 

 あの夏のセミの鳴き声も、

 あの高台から見える海と、

 その向こう側にある山と、

 こっちを向いて微笑む君も。

 

 もっともっと沢山の言葉で、

 もっともっと綺麗な言葉で、

 共に土に返るまで表したい。

 

 君と居るときだけは、

 綺麗な言葉だけの世界にしたい。

 君といない時の言葉の醜さを知っているから。

 

 醜い感情で心が埋め尽くされないように、

 美しい言葉を紡ぎたい。

 君を美しい言葉で埋め尽くしてあげたい。

 

爆ぜないで夜

 夏休みのだらけた時間も夜ふかしして見たテレビも、夕暮れ時にふと先が不安になる感じも、すべて何となく忘れた。何となく覚えてるけど。そんなこと今はどうでもよくて、気分転換しに行った。昔遊んだ公園、笑顔で遊ぶ親子連れ。

 追いかけた夢は追いきれなくて、友達が追いかけてた夢は手が届かなくなって。あの頃と変わっていないのはこの暑さだけでした。

 夏の夕暮れ、迫る焦燥が今日もあるはずで。でもそんな焦燥すら感じる余裕すらなくて。夢を追いかけて頑張ってたあの頃が切なくて、追いかけたくないものに追われる日々が嫌になって。

 ふと知らない場所に逃げたくなって。

 ズルいだろう土曜日の午後から夜に変わる瞬間の、私鉄の改札の前でキスしてる学生が僕の深い傷に塩を塗りこんでいくような気がして。

 刹那だ。夜の始まりだ。

 夏休みなんて無いならいっそ全てから逃げ出して、雪が降っても桜が咲いてもまた夏が来ても続く長い夏休みを作ってしまおうか。作るも何も逃げるだけだけれど。人類最大の不幸は夢が無いことだって、中学2年の頃恩師が教えてくれたんだけれど、今の僕には夢もお金も時間すらも満足になくて、酒はあまり飲めなくて夜は眠れなくて。

 閲覧履歴に並ぶ言葉は転職とかメンタルクリニックとか退職代行だとか。希望を持つ難しさと絶望しない難しさを痛感して悩みが増えていた。

 スマホに残る昔の写真にはきれいな瞳と笑顔だけが並んでいてキラキラで眩しいな。眩しい日々に戻ることよりも、今の悩みの全てを手放して、景色のきれいな場所に愛おしい人と行って神に願いたい。

 現実逃避だ。だけど、現実だけを見つめていると息が詰まるんだ。不安から逃れられないのはわかってるけど逃げたくなるんだ。不安から逃げられないってわかった今の願いは、不安すらも心の味方にしてやって、不安と共に未来を作り出すことだ。

でも今はこの空が

 

 綺麗な夕暮れ。地元は田舎だけど、でもいろいろな飛行機が高度を下げて着陸しようとしているところを見ることができる。僕はこの飛行機のように、世界各地を飛び回って世界の人々を明るくするような商品が作りたいのだ。

 夢をかなえるためには、夢を鮮明にする必要があると思っていて、ちょっと壮大すぎる夢を具体的に考えてイメージトレーニングしている。机上の空論だけど。

 それでも夢がないよりかはマシかと思って、でも今の僕のままでは夢を叶えられないと思って、だからめちゃくちゃ努力しようとしている。だらけちゃうけど。

 

 朝起きる度に鏡の前の自分に「とびたちたい、まだ知らない世界へ!!」とかっこ付けて言ってみるけど、そのために勉強しているけど、でも夕暮れの飛行機を見るとやっぱり自分のだらしなさを感じてしまうんだ。

 

 頑張りたいけど、気持ちが空回りしている気がして。

 夕暮れの飛行機こそが僕の原風景で、そして頑張るきっかけを作ってくれたのだけど。

 でも今はこの空がプレッシャーなんだ。

 

 勝負の夏がやってくる。

 

うちあげ花火

#鳥豊地方南部 #魚住県尼心市塩原海岸

 

 うちあげ花火を一緒に見た人は別の人と結婚したけど、そういう私だって今は別の人と結婚して幸せだ。

 

 あの頃と違うのは、絵を一切描けなくなってしまったこと。昔は暇さえあればずっと絵を描いていて、イラストレーターを本気で目指していたのに、ある日突然描けなくなった。あまり思い出したくないのだけれど。

 

 今年も8月3日がやってきた。今年はそもそも花火を見に行けない。仕事をしながら子育てをするのはとても大変で、でも苦しいけれど頑張れている自分がいて。

 

 「花火みたいよ~~」

 ってだだこねる子どもの気を、大好きなアニメを見せることでそらせてみる。

 

 私だって花火みたいよと言いたくなる気持ちを抑え、家事が一通り終わったタイミングで昔の花火大会の写真をこっそり見返してみる。苦い思い出が蘇ってきた。

 

 昔の悩みをふと思い出す。今考えてみるととてもくだらないことで悩んでいたんだなと感じる。告白をするのも、キスをするのも、バレたくない一面を隠すことも、どうしてそれだけでそんなに悩んでいたのか。逆に今は恥じらいってものがなさ過ぎるのだろうか。時折旦那に「なんでそんなことを堂々とやるんだ一応恥ずかしがれ」なんて言われる。

 

 アレ、なんで恥じらいを忘れたんだろう??

 


※当ページの内容はフィクションです※

当ページ最終更新日 2023年08月06日

当ページ公開開始日 2023年08月06日